こだま監督一強の風潮について
2023年11月29日にてついに来年度の劇場版名探偵コナンのタイトルが『100万ドルの五稜星』であることが決定し、そのティザーやスタッフなどの基本情報も同時に公開された。
そしてこの時期にX(旧Twitter)などで毎年言及されているのが、映画監督に関する賛否だ。今年も一部で、2019年公開の『紺青の拳』、2021年公開の『緋色の弾丸』を手がけた永岡監督に関する議論が巻き起こっていた。
今回は、タイトルの通り歴代コナン映画監督の中でもレジェンドとまで呼ばれることもある、ファンの中でも一番人気のこだま監督に関して主に掘り下げて行きたいと思う。
1. そもそもこだま監督とは?
第1作『時計じかけの摩天楼』(1997)から第7作『迷宮の十字路』(2003)までを手がけ、初期コナンの人気獲得に大きく貢献したと言っても過言ではない人物。第7作を最後に、2023年現在でも劇場版名探偵コナンの世界から離れたままであり、一部ファンからは復活を期待されることもある。
2. こだま監督か、それ以外か
現在でも、度々インターネット上の掲示板、スレッドなどでこだま監督についての凄さをまとめたものも多く見受けられる。では、なぜここまでこだま監督作品は人気なのだろうか。もちろんこだま監督が天才だからで終わってしまう話ではあるが、できるだけ客観的な理由を述べていこうと思う。
2−1. 登場人物が少なくわかりやすい設定
こだま監督期ではメインキャストはコナン含む子供たち、ヒロインの蘭ちゃん、三枚目キャラのおっちゃん、協力者の阿笠博士と哀ちゃん、情報提供者の目暮警部と白鳥警部(当時は警部補)ら警視庁のメンバーが基本で、そこにライバルのキッドと平次くんがたまに入ってくる程度である。今から見るとかなりコンパクトな人間関係だろう。
今や目玉の一つのラブコメも、基本的に掘り下げられるのは新一と蘭、平次と和葉の高校生カップルのみ。わかりやすい...。
ここは監督の技量に大きく依存するところだが、一般にキャラを増やすとある程度の活躍をさせなければならない以上、この点は初期のこだま監督の方が有利と言えるのではないか。
2−2. 派手すぎる演出が少ない
今やコナン映画の目玉となっている、非常に派手なアクションシーンや爆発シーン。どこかの感想では「ハリウッドもびっくり」と書かれていたのも特徴的だろう。(もちろんこだま監督期も車で隣のビルに飛び移るとか屋根の上で戦うとか色々あったのだが)
この点も前年よりは面白いものをという製作陣の気持ちも踏まえると、徐々に演出が派手になっていき、過剰と言われるまで来てしまうのは当然なのかもしれない。(アクション好きの静野監督の影響もあるかもしれないが)
やはり初期なので、大それたことをするよりも、放送されているアニメや漫画の事件の規模を大きくし、主人公のかっこいいところを見せる、こういった基本や根幹を忠実に守って手堅く行った結果かもしれない。今では特にアクションの派手さも以前より求められるようになったという環境も踏まえると、こだま監督の方がこのようなミステリーを売りにしたコナンらしい作品を作りやすかったのだろう。
2−3. ネタが豊富にあるから
やはりなんと言っても最大の理由はこれだろう。爆弾処理の最後で赤か青かの選択(1997)や、大切な人に向けての発砲の理由(1998)、ヒロインの記憶喪失(2000)といったメインキャストをふんだんに使ったネタや定番ネタも選びたい放題。
一つだけこだま監督について言わせてもらうならば、このような鉄板ネタを使えるという点で近年の監督と比べて秀作、傑作を作りやすい環境にあるので、幾分か有利になることになる。とはいえ、このようなネタを上手くコナンらしさを見せながら面白い作品を作ることができるのは、監督自身の実力であるのでそこは評価されるべきなのだが。
このような鉄板ネタ以外にも、黒の組織との接触(2001)やVR空間での攻防(2002)といった本筋に絡んだものや、斬新な設定もあるにはあるが、やはりこういう内容でもあまり被ってはいけないという暗黙の了解の下では、自然と初期の方が選びやすくなるだろう。
3. こだま監督はレジェンドと呼ばれる理由
結論、
明確な後継者がいないから
に限りますね。あとはこだま監督作品の中で優劣はあれど明らかな駄作を出さずに制作から降りたというのもあるとは思いますが。
佳作と呼べるものはこだま監督後も何個かはあるのですが、明確にこだま期より面白いかと言われるとそうではないのかなと私は感じております。正直に言うと、私は良く言うこだま信者に当たると思います。しかし、それはこだま監督を信奉しているというよりも、他に対抗馬がいないから、そうならざるを得ないというのが私の意見です。他のこだま信者の方も同じように感じている人が多いのではないでしょうか。
4. 期待される世代交代
本文でも述べたように、今やコナンはキャラも増えて国民的なアニメになりつつある(ファンじゃなくともとりあえず見る人もいる)ので、そうなると求められるものも昔と同じというわけには行かないですし、そもそもこだま監督が10年くらいやっていたとしても、流石にマンネリを指摘する人が目立つようになるでしょう。
大切なのは、作風や求められるものが変わった中で良い作品を作るということです。色々賛否はありますが、私は2014年あたりから見られる本筋に絡む要素を入れることや、主人公以外のキャラの活躍にフォーカスするという流れはマンネリ打破には良いのではと思っています。
そしてそれを上手く見せられたなと思ったのが、2022年『ハロウィンの花嫁』、2023年『黒鉄の魚影』が挙げられるでしょう。そして後継者として密かに期待しているのが、2022年の満仲監督、2018年と2023年の立川監督になります。
上では挙げませんでしたが、個人的に2018年の『ゼロの執行人』も気に入っているので、立川監督には特に大きな期待を寄せております。
5. まとめ
『名探偵コナン』は来年で連載30年を迎える長期作品です。それによって、多少の世界観や押し出していきたいキャラなども当然変わってくるはずですが、上手くその時代ごとの良さを引き出してくれるような映画が多くなってくれば、こだま監督時代の作品も一つのコナンの歴史として語り継がれ、過去の栄光のような紹介のされ方は減ってくるのではないでしょうか。